栃木県の昭和の版画家、鈴木賢治展に行ってきました。
栃木県出身の作家、鈴木賢二没後30年を記念した展覧会が、栃木県立美術館で行われていたので行ってきました。
「鈴木賢治」といっても知っている人はほとんどいないかもしれませんが、栃木県の栃木市では割と有名な作家さんで「鈴木賢治研究会」なんてものもあります。
私の両親が栃木市出身ということもあって、私にとっては馴染みのある作家さん。
レポートもかねてご紹介します。
作家紹介
鈴木賢二 1906年 – 1987年
昭和の働く人々を描いた版画・彫刻家。
戦前のプロレタリア美術運動から戦後の版画運動まで激動の時代に翻弄されながらも常に社会と関わり、生涯にわたって働く人々に温かいまなざしを向け描いた作家。
【鈴木賢二展】
2018年1月13日[土]- 3月21日[水・祝]
栃木県立美術館
描かれるものは基本的に人物で、しかも綺麗に着飾った人ではなく泥まみれ汗まみれになって働く人たち。
一生懸命に働くその姿の中に、時代に翻弄され悔しさを噛みしめる表情、時に愛するものを慈しむ表情があります。
賢二は、働いて生活すること、平凡でありふれた人々の暮らしを描いています。
この、特に何らかの事件やイベントではなくありふれた人々の様子の版画が、なぜか心を打つ、なぜ長きに亘って評価され続けるのか、賢二没後30年の今もなぜ消え失せることなく、こうして人を集めるのか・・・。
強い生命力を感じる作品たち
作品を見て私が最初に受けた印象は、繊細さと力強さをあわせ持った作風ということ。
版画特有のシャープな筆致で、細やかにそして時に大胆に描かれています。
「繊細さと力強さをあわせ持った」という表現は、芸術作品を表現するときによく言われるありふれた言い方かもしれませんが、賢二の作品を見た瞬間も見終えた後も、最も頭に残った印象です。
そして、ひとつひとつの作品に、作家の思いを強く感じます。
作家の思いがそのまま描かれている人物に乗り移っているかのように、作品から強い生命力を感じます。
貧しく理不尽な現実への抵抗
当時の時代背景を考えると昭和初期の戦前から戦後そして近現代へと移り行く激動の時代です。
廃退した日本と復興に燃える日本から、世界的に見て豊かと評される日本へと変遷していく大きく日本が変わった時。
人は「理想」を思い描くし、その「理想」をなんとか現実にしようと努力するものだし、そうでなくてはいけません。
賢二の作品は、理想とは違う現実への抵抗。
皆が豊かで幸せであれ・・・という理想に対し、現実はとても貧しい。
生きることに精一杯で、理不尽なことや不公平や納得いかないことなど山ほどあるけど、不満を言う余裕などなく、ただただ生きるために働く人々。
ひたむきに生きる人々の日常を作品にすることでオマージュするとともに、どんな時代でも私利私欲を貪っている人はいるもので、そうした人へ何かしらを訴えかけているんだと思います。
この作家さんは、とても感情が深く琴線細やかな人のように感じました。
繊細で細やかだと社会の中では生きづらいものだけど、決して自分を見失わない強さと情熱があり、それが作風によく表れています。
時代に流されず、真の良き日本を求めて懸命に自分の役割を理解して、それを最大限に実行した人。
悲しみとともに暖かさや愛を感じられる素敵な作品たちです。
関連リンク
毎日新聞
【没後30年鈴木賢二展 昭和の人と時代を描く- 働く人のための芸術=評・高橋咲子】
https://mainichi.jp/articles/20180131/dde/018/040/031000c
TOKYO ART BEAT
http://www.tokyoartbeat.com/event/2017/4213
栃木県立美術館
http://www.art.pref.tochigi.lg.jp/exhibition/t180113/index.html